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白神の大切な自然は活用することで守り、未来につなげていきたい NPO法人白神山地を守る会 代表理事 NPO法人白神自然学校一ツ森校 代表理事 鰺ヶ沢白神グリーンツーリズム推進協議会 会長永井雄人 白神の大切な自然は活用することで守り、未来につなげていきたい NPO法人白神山地を守る会 代表理事 NPO法人白神自然学校一ツ森校 代表理事 鰺ヶ沢白神グリーンツーリズム推進協議会 会長永井雄人

1993年12月、鹿児島県の屋久島とともに日本初の「世界自然遺産」に登録された白神山地。約13万haの広大な山地のうち約1万7千haが世界遺産に登録され、その約4分の3を青森県(西目屋村、鰺ヶ沢町、深浦町)が占めている。白神を舞台に、“自然に触れながら自然の大切さを知る”という環境教育を展開しているのが青森市在住の永井雄人氏だ。世界遺産登録以前から植生の調査研究や白神のブナの森の再生活動を行い、2003年には廃校を活用した「白神自然学校一ツ森校」を開校した。鰺ヶ沢町一ツ森地区は、白神山地を舞台に人々と森との関わりが“マタギの文化”として残る里。自然との共生を学ぶ自然学校を拠点に都市と農村交流を実践し、地域資源を生かしたさまざまな活動で地域振興に取り組んでいる。自然保全と環境教育を両立させながら永井氏が想い描く白神の未来とは―。

白神の山にブナを植林するのは、山に対する畏敬の念

Q白神山地の自然保全活動は、どのようなきっかけで始められたのですか?

永井父が営林署勤務だったこともあって、父に連れられて白神山地に限らず県内の山によく入っていたんです。父は、わたしが小さいうちから山の花や木の種類など、山の魅力をいろいろ教えてくれました。しょっちゅう登山していたので、山のことを知らない人たちから、「永井についていくといろいろな山に行けるみたいだぞ」ってなって(笑)。徐々に山に入る仲間が増えていきました。それで、山に入るんだったらブナの苗木を植えて植林でもしようということになり、山好きの有志たちと「白神山地植樹交流会」というのを1993年につくったんです。世界遺産になる前の白神は、スギの拡大造林計画でブナを切っていたんですよ。ですから、せっかく山に入らせてもらうので代わりに伐採されたところに苗木を植えて来ようという、山に対する畏敬の念ですね。世界遺産に登録されたのはいいけれど、ブナの木がない山が世界遺産というのはちょっとカッコ悪いよね、と(笑)。やっぱりブナがある白神山地を見てほしい、そういうところから和が広がり、活動自体が白神山地を守る活動になっていったので、植樹交流会ではなく、「白神山地を守る会」として1999年にNPO法人にしました。林業が衰退していけばどうしても荒廃していきます。白神の自然保全とはどういうことか、それは森に入ってブナの実を拾い集め、苗木に育て、それを山に戻す。破壊された場所に植林し、復元・再生していくということに結論づけたわけですね。

Qブナの魅力とはどのようなものですか?

永井ブナの森は、スギや人口林の森と違って空気がものすごくおいしいんです。静寂度も全然違う。風が吹いたときにブナの葉の揺れる音が独特で、ゆらゆらゆらりというか、とても気持ちのいい音がするんです。“癒される森”ということですね。ブナの木は昔から生活のうえでも家具材やりんご箱などに、里山では薪や炭として使っていましたので、この地域にとってブナの森はとても大切なものなんです。ブナの苗木を育てるというと簡単そうに聞こえますけど人工的には非常に難しいんですよ。始めてから7年間は失敗続きで、8年目でようやくできるようになった。種を苗木にする過程で、ダメだったら1年先まで待たなくてはならないですからね。ブナは4年おきか5年おきにしか種をつけないので、その間は缶詰や真空パックにして発芽率を確かめながら育てていくのですが、発芽率はだんだんと落ちていくわけです。そういった様子を見ながら人工培土を使ってみたり、肥料の割合やどの肥料がいいかなど、けっこう時間も手間もかかります。うちの場合、発芽率は8割くらい。おそらく8割はなかなかないと思いますよ。普通は良くて6割あるかどうかじゃないかな。

山を守るには、地元の人たちが山に関わることが不可欠 ―
それが「白神自然学校一ツ森校」の原点

Q「白神自然学校一ツ森校」の開校は、「白神山地を守る会」が出発点になるのでしょうか?

永井そうですね。「白神山地を守る会」を発足してから、植樹の活動拠点としてこの一ツ森地区に一軒家を借りて、守る会の鰺ヶ沢事務所を置いたんです。山に入る道具をしまっておく場も必要でしたしね。その活動が鰺ヶ沢町長の耳に入ったみたいで、2001年に鰺ヶ沢町から連絡をいただいたんです。鰺ヶ沢町には「白神の森遊山道」(旧ミニ白神)という登山コースがあるので、町としてはこの遊山道を“白神グリーンツーリズム”の拠点にしたいという考えがあって、ガイド養成講座をやりたいと。それでわたしに声がかかったんです。翌年の2002年から白神のガイド養成講座の講師として1年間ここに通いました。当時は仙台に住んでいたので、青森市に家族はいましたが3回のうち2回は鰺ヶ沢町に借りた一軒家に泊まり、1回が青森市の自宅。妻は呆れていたけど(笑)。普通は二極生活で都市と田舎の交流でしょ。わたしは三極生活というのかな(笑)。そんななか、町長から「廃校になる小学校があるので活用して何かできないだろうか」と相談を受けたんです。それで、以前から考えていたこともあって「地元の人たちがもっている林業のスキルとか、資源を利用できるのであれば、自然学校というのができますよ」と提案したところ、ぜひやってほしいというお言葉をいただいて、この自然学校につながっていきました。

Q町が目指す方向性と、永井さんのお考えが合致したということですね?

廃校を活用した白神自然学校一ツ森校

永井この一ツ森地区で活動していくなかで、ここの住民の人たちが白神山地と関わることが少ないと感じていたので、何かできないかと考えていました。世界遺産になって多くの観光客が来ましたが、それがこの白神山地にとって本当にいいことなのか、単なる観光で終わらせてはこの白神の自然を残せないと思ったんです。入山規制ができて自由に山に入れなくなったこともあって、地元の人が山から離れていたんですね。山を守るためには、地元の人たちが山と関わっていくことが不可欠ですし、この集落を残さなくてはいけないわけです。ここにはマタギの文化も残っていますし、林業とか山菜料理とか山の暮らしがある。地域の宝がたくさんあるんです。規制だけでは山は守れない。それで廃校活用の話しを聞いて、“自然学校”というかたちで地元の人が関わってやれるなら、と思ったんです。住民の人たちには町長自らが説明してくださいました。だから住民の人たちを巻き込んだのは町長です(笑)。2003年3月に一ツ森小学校が廃校になったので、その年の10月にNPO法人に登録して「白神自然学校一ツ森校」を開校しました。

Q自然学校の開校に向けては、ご苦労されたこともあったのでは?

永井最初はね。この鰺ヶ沢町に一軒家を借りて活動をはじめた頃は、「一軒家で何やっているんだろう?」って、犯罪者が逃げてきたんじゃないかって思われていたみたいでね(笑)。あいさつ代わりに1軒1軒に手ぬぐいを配ったりしていました。山に入って種(ブナの)を拾いに行くための協力者が必要だったので、バケツ一杯で2万円払うからどう?という話を1人にしたら、7人くらい集まっちゃって(笑)。1年に3か月おきくらいで、みんなでごはんを食べようとか、一杯飲もうやとか、正月には集会に参加して集落の人たちとも馴染んでいきました。それに、地元の婦人会の人たちが先導をきって応援してくれたんですよ。種を拾って、苗木をつくって、山に植林するまでに4年程かかるので、その第一歩が大変なのですが、ある女性が、「みんなで協力しよう、町長も応援しているんだし、まちがいない人だから応援しよう」とみんなに声をかけてくれて。自然学校の話のときも、そんなことで人が来るのかと半信半疑の人もいましたが、地元のおばちゃんたちが「漬物づくりや山菜採りを教えるくらいなら自分たちもできるよ」と申し出てくれて。そこから始まったんです。

自然学校は、鰺ヶ沢町に暮らす人たちの支えがあるからこそ

Qこの自然学校に関わるスタッフ、運営体制はどのようにされているのですか?

永井「白神山地を守る会」が運営しています。わたしは主任講師として、自然活動体験推進協議会の第一種トレーナーの資格を持っています。この学校では自然ガイドのライセンスも取れるので、卒業した58名のうち、実際にインストラクターとして本業の仕事を持ちながらリーダーを務めているのが20名程います。子どもたちがここへ体験に来る期間は休みを取ってここに来て、ボランティアという形でやっています。海外からの学生ボランティアもいますね。でも、この学校は町の協力を得てできていますので講師たちは基本的には地元の人たち。地域の人的資源と自然資源を活かすのがこの学校の趣旨のひとつですからね。

Q白神山地ならではの自然資源を活かした体験というと、どのようなものでしょうか?

永井ここは白神山地という山があって、豊かな川があって、海があるという、山・川・海のその循環のなかに「里」という暮らしが成り立っています。特に米はおいしいし、それは白神の恵み。そういう地域資源があって、集落が白神と関わってきた里であり、マタギの里でもあるんです。この自然学校一ツ森校は、山・川・海という自然循環型環境が整っている赤石川流域に在るので、子どもたちには自然循環の中に入らせて、自然には生き物がたくさんいることを教え、そして木に触れさせるんです。自然は素晴らしいものだということを五感で感じてもらう環境教育ですね。みんなで山菜や地元の食材を使った料理を作って食べて、遊びも食事も白神の恵みを味わってもらっています。校舎内では「農家レストラン」を営業しているので、地元の食材をふんだんに使った郷土料理を提供しています。赤石川で捕れる名物の「金の鮎」料理や、地元の肉・野菜を使った「白神グリーンカレー」も人気ですよ。このレストランも地元のおばちゃんたちが支えてくれています。料理実習や菓子づくりの講師としても活躍してくれていますよ。

海外からのお客さまは、おばちゃんたちの元気の源

Q海外からの参加も増えていると伺いましたが、住民の方たちはどのような反応ですか?

永井最初はぎこちなかったのですが、ジェスチャーで一緒に山菜料理を作ったり一緒にワークをしたりしていくなかで、だんだんとお互いに気持ちが合うようになっていきましたね。10年程の間に36回も海外から来ているんですよ。この地域のおばちゃんたちは、ほかの地域よりも外国人に対する抵抗力というのがなくて、Welcomeなんです。「よく来たね~」と、最初に会った時に手を差し伸べたり、ニコッと笑ったり、言葉はできなくても笑顔で言葉の壁を突破です(笑)。ですから、海外から来てくれることをとても楽しみにしていますし、来てくれた人たちも、おばちゃんたちと料理を作るときは一緒にスーパーに行って材料を集めて、ロシア料理とかタイ料理とか、自分たちの国の料理も作ってくれます。小さい瓶に入った唐辛子を全部入れて作っているのを見て、これは無理!というのもありましたけど(笑)。でもそういうことから交流が生まれるので英語ができなくても問題はないんです。一応、しゃべるだけの自動翻訳機もありますが使っていない。コミュニケーションは身振り手振りで、ですよ(笑)。

Q地元のお母さんたちにも楽しみなイベントになっているんですね。どのようなときがうれしそうですか?

「農家レストラン・しらかみ」の神 悦子さん

永井おばちゃんたちはよく言っていますよ。「海外に行かなくても、こんな田舎で世界中の人たちと会えて、世界中のお土産ももらえる。楽しい!」って。農家レストランで食事を提供しているので保健所の水の検査が厳しく、消防関係もありますが、おばちゃんたちは「手続きは永井さんがやってくれるんでしょ」って(笑)。面倒なことは全部わたしが担当です(笑)。でも、みんな本当に楽しそうですよ。田舎にいると外の人と交流する機会はなかなかないですし、地元のおばちゃんたちはもっと働きたいという思いを持っていたので、こういう場所で働きながら、新しい出会い、若い人たちとの出会いは、おばちゃんたちの元気の源になっていますよね。それに、仕事ですから自分で稼いだお小遣いが入ってくるでしょ。やっぱり、孫にお小遣いをあげたいとか誰かに贈り物をしたいときに、自分のお小遣いからできるというのは旦那さんに気兼ねしないでできますからね。海外から来た人たちは、この校舎内にある簡易宿泊施設も利用しますし、おばちゃんたちの農家民宿にも泊まるので交流が深まるんです。一番うれしいのは、「ありがとう」と言われたときですよね。帰国するときに手づくりの漬物や地元のお土産を渡しているのですが、帰ったあとに御礼の手紙やお土産が届くんです。うれしそうに「永井さん、こういう手紙が来たよ!」と言って見せてくれてね。リピーターもできていますよ。 “楽しい”というのが生きがいだと思いますね。

自然の中で都会に暮らす子どもたちの五感を刺激し、潜在能力を引き出す

Q開校当初から東京都杉並区の子どもたちとの交流が活発と伺いましたが、どのようなきっかけですか?

永井杉並区の環境委員会の方がこの白神自然学校を視察にいらしたのが最初のきっかけです。同区では毎年「環境博覧会」というのを開催していると伺ったので、申し込んで出展しました(2004年)。鰺ヶ沢町の特産品の販売や、写真を展示してこの自然学校を案内したところ、教育委員会の方が興味を持ってくださったんです。パンフレットが欲しいということで、36,000部だったかな?教育委員会から同区内の小学校に配布していただいたんです。ただし、学校からは申し込みはできません、と。子どもたちが家に持ち帰ってご両親に「こういうのがあるんだけど」と言って、子どもの意思で参加するようにしたんです。パンフレットをそんなに大勢に、しかも小学校に配布してもらえるなんてなかなかないことですし、教育委員会がお勧めしているお墨付きの自然学校だというので反響もすごかった。以来、毎年夏休みと冬休みに自然体験塾の受け入れをしています。いまは杉並区だけではなく、関東一円という感じで首都圏の子どもたちを受け入れています。こういった都市と農村の交流事業が評価されて、「オーライ!ニッポン大賞*」というのをいただきましたし、農林水産省の「立ち上がる農山漁村」にも選ばれました(2006年度)。もっとほかの区にも広げたいと思うのですが、区の方針もあるし、なかなか難しいところもありますね。

* 「オーライ!ニッポン大賞」=都市と農山漁村を往来(オーライ)する新たなライフスタイルの普及や定着化を図るため、日本各地で都市と農山漁村の交流を盛んにする活動に積極的に取り組んでいる組織および団体、個人を表彰。

Q参加した子どもたちの反応はどのような感じですか?

永井都会の子どもたちは、この自然というものにうまく溶け込んでいますね。言葉が要らないというか。自然の中に入って、あぜ道や小川に行くと、「網はない?」とか、「なんか生き物がいる!」って。捕ってくると、「わー!これ何?!」って興奮している(笑)。どんどん本来持っているその子どもたちの潜在的なものが出てくるんですね。こういう環境の場が都会には少ないのだろうなと思いますよね。自然の中に入る環境を子どもたちに与えてあげると、どんどんその子の持っている隠れた能力が引き出されてくるし、みんな1日目の夜は興奮して眠れない(笑)。普段は成績の良し悪しでこのくらいしか勉強できない、みたいなことを言われてしまうけれども、自然の中に入るというのは、実はこの子は能力がいっぱい隠れている子なんだという発見があると思うんです。振り返りとして、今日何があったかを書いて、それを最終日にまとめて本人に返してあげるのですが、家に帰ってご両親に見せるんでしょうね。ご両親から手紙が来て、「うちの子にそんな能力があるとは知らなかった」とか、「うちの子に、こういうところがあったんですね」って、よくそんな手紙をいただきますね。

Q自然学校で子どもたちに体験させているのは、永井さんが良かったと思ったものを残したいという思いからですか?

永井そうですね。あまりにもいまの社会は電子化されているものが多くて、バーチャルとか遊びもゲームとかでしょ。五感を使って遊ぶという体験が少なすぎると思うんです。「ご飯がおいしい」「水がおいしいからだね」「空気もおいしいよ」って、ごく自然に子どもたちの感性が敏感になっていく環境は必要だと思いますし、やっぱりこの白神という奥深しい、世界遺産にもなっているホンモノの山というか、こういう場所で体験することはものすごく意味もあって大事かな、と。将来的にもし自分が行き詰まったとき、リフレッシュしたいときには“自然に行く”というか、“自然に戻る”というか、ここでの体験がベースになればいいと思いますね。何かあったときは自然の中に入ってみる。何しようか、どこへ行こうかと家族と話をしたときに、山に行こうよ、海にいこうよって。山好きの子、自然に戻る子が増えればいいなと思います。環境問題を無視できない今日では、子どもたちだけでなく、都会に暮らす大人たちの自然回帰の機会も必要だと思っていますので、親子体験プログラムもありますし、エコロジー体験ツアーとかクロモジの葉の採取や蒸留体験など、大人たちが山に入って体験できるプログラムも用意しています。

白神ならではの山の恵みを生かした新たなチャレンジ

Q白神山地の自然との関わりという点で、新たな取り組みはありますか?

永井ヒバやクロモジ、スギといった白神の香りを商品化しています。先日、ある特別養護老人ホームに伺って、白神山地の映像と録音した白神の音を流しながら3種類の香りを嗅いでもらったところ、「山菜を採りに行ったことを思い出した」とか、「わたしは花が好きで、よく山歩きをしたんです」とか、80歳を過ぎた入居者の方たちがおっしゃるんです。年を取ると嗅覚は弱くなるといいますが、近くで嗅ぐと脳に刺激がいくんでしょうね。白神のアロマの香りで山での経験を思い出してくれたわけです。また、おむつ交換の時に使えるスプレーの消臭効果実験や、昼寝のときに精油を垂らしたものを枕元に置いて、その効果も試していただいています。毎日同じ空間の中にいると五感を感じる機会がないでしょ。白神のアロマで五感をちょっと刺激して、良い反応があれば県の健康福祉部に報告して一緒に取り組んでいきたいと思っています。アロマは、健康増進のうえでも生きがいのうえでも大事だということを証明して、アロマセラピーの世界をご高齢の人たちにも楽しんでいただきたいな、と。

また、スギの木を活用したバイオマス事業にも取り組んでいます。スギはいろいろなポリフェノールやエタノールも採れるし、次世代素材として注目されているセルロースナノファイバー(CNF)の素材になるセルロースも採れるんです。CNFは鋼鉄の5倍以上の強度があるのに軽いので、自動車や電子機器など幅広い用途への利用が期待されています。スギに付加価値をつけて林業に反映できればと思い、いま実証実験中です。そのほかには草木染めもやっていますし、定年して時間を持て余しているお父さんたちの出番をつくる、といった事業も検討中です。家でブラブラしているとお母さんに邪魔者扱いされちゃうからね(笑)。おカネはないけど知恵を絞るって感じかな。白神山地の恵みを多くの人たちに提供し、対価を得て、地域が元気になる事業を展開していきたいと思いますね。

若者が活躍できる場を創り、育て、50年後100年後の白神山地を残したい

Qいま抱えている課題があれば教えていただけますか?

永井この自然学校が、独立採算がとれるかたちにするためにも、後継者を育てるためにも、多くの人にこの白神山地の魅力を知ってもらい、世界中から来てもらうことですね。生業として後継者づくりにつながっていく規模まで交流人口を増やしていくことがここの課題です。そのためにいろいろなコンテンツを用意して、プログラムもたくさんつくって、欧米系の人たちにとってもこの白神はいいポジションにあると思うのでしっかりとプロモーションして来ていただくということですね。後継者が育ち、若い人たちが活躍できるように雇用も生んで、限界集落とか消滅集落というものから脱却したいというのがありますし、それが克服できればいいと思っています。せっかく世界遺産というブランドがあるのですから、白神のブランドを育てて、50年後100年後の白神山地を残していきたいですね。

Q地域を活性化させるうえで、永井さんが大切にしていること、重要だと思われることとは何でしょうか?

永井地域活性化というのは、やっぱり地元目線ではダメだと思うんですよね。地元目線の裏には“地域エゴ”というのが必ずあるので、そこを脱却しないと見えてこないものがある。地域には宝がいっぱい埋まっていますから、よそ者の視点を持つことが大切だと思いますね。地方の集落というのは地元の長老によって成り立っているところもありますが、ちょっと目線を変えて若い人に光を当てて見ると、意外な発見がある。若者目線を伸ばしてあげることで、若者のやる気も出てくるでしょうし、若い人材が活躍していくことで地域の明るい未来が見えてくるんだろうと思いますね。若い人が頑張っていると応援したくなるでしょ(笑)。目線を変えて見るって大事ですよ。

(2019年9月インタビュー)

  • 赤石川で生き物探し

  • 親子体験プログラムで「爪楊枝」づくり

  • 冬の体験塾では餅つきや、つきたてのお餅を楽しむ

  • オオバクロモジの葉を採取中
    (白神山地蒸溜体験ツアー)

  • 小学校だった面影を残す、白神自然学校一ツ森校内

  • アロマ商品・例)100%天然のオオバクロモジの
    枝と葉から採れる精油を蒸留したアロマ

受賞歴

永井雄人氏

  • 2005年 愛知万博で「愛・地球を愛する世界の100人」に選出
  • 2007年 公益財団・社会貢献支援財団「社会貢献者表彰」受賞
  • 2017年 第14回オーライ!ニッポン「ライフスタイル賞」受賞(個人賞)

〔白神山地を守る会〕

  • 2005年 平成17年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰受賞(対策活動実践部門)
  • 2007年 フジサンケイグループ第16回地球環境大賞「環境地域貢献賞」受賞

〔白神自然学校一ツ森校〕

  • 2005年 第2回オーライ!ニッポン大賞受賞
  • 2006年 「立ち上がれ農山漁村」優秀事例に選定(農林水産省)
  • 2007年 第2回山村力(やまぢから)コンクール〔団体の部〕受賞(白神の里への定住促進事業)
  • 2019年 平成30年度東北農政局「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」優良事例に選定

profile永井雄人 (ながい・かつと)
NPO法人白神山地を守る会 代表理事 / NPO法人白神自然学校一ツ森校 代表理事
青森県大鰐町出身。1993年に山好きの仲間たちとつくった「白神山地植樹交流会」を、1999年にNPO法人に登録し、「白神山地を守る会」を発足。植生の調査研究や白神山地で採取したブナの種を育成し、植林するブナの森の再生活動を行う。2003年、鰺ヶ沢町の廃校を利用した「白神自然学校一ツ森校」(NPO法人)を開校し、代表理事に就任。鰺ヶ沢⽩神グリーンツーリズム推進協議会・会長も務める。自然活動体験推進協議会第一種トレーナー。「白神ブナの森博物誌」(2000年)」ほか著書多数。

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